夏の暑さが年々厳しく感じられる昨今。
エアコンに頼りがちな生活が続く中で、昔ながらの「打ち水」という涼（りょう）の取り方が見直されています。
 
打ち水とは、玄関先や庭、道路に水を撒いて「気化熱」によって周囲の気温を下げる、日本伝統の知恵です。
近年ではエコで風情のある暑さ対策として、SGDsや節電の意識の高まりとともに再注目されています。
 
今回は、打ち水の効果や正しい打ち水の方法、現代の生活に取り入れるコツなどをご紹介します。
 

打ち水とは？その歴史と意味

打ち水は、日本の風土と暮らしに根づいた文化です。
特に江戸時代には、町人文化（ちょうにんぶんか）の中で日常的に行われていました。
 
玄関先に水を打つのは涼を呼ぶためや、ほこりを抑えるため、来客を清めるためといった意味合いも込められています。
つまり、ただの暑さ対策ではなく、おもてなしや礼儀のひとつとしても行われていたのです。
 
また、お寺や茶室では静けさを演出する意味合いもありました。
打ち水によって土や石畳が濡れ、しっとりと落ち着いた雰囲気を醸し出すのです。
 
現代では打ち水は風情ある夏の風物詩として注目される一方、環境にやさしい冷却法としての価値も見直されています。
 
なお、環境省では、「ecoアクション」として打ち水を推奨しています。
 
参考：ご存知ですか？夏の風物詩「打ち水」のコツ┃環境省
 

打ち水のメカニズム┃どうして涼しくなるの？

打ち水が涼をもたらすのは、気化熱の作用によるものです。
 
水が蒸発する際、周囲から熱を奪います。
これにより、地面の表面温度や周囲の気温が下がるのです。
 
特にアスファルトやコンクリートなど、熱をため込みやすい素材の上に水を撒くことで、その熱を効率的に奪えます。
 
また、水を撒いたことで発生する水蒸気が、風に乗って肌に当たると、さらに涼しさを体感できます。
これはエアコンの冷気とは違い、自然でやさしい涼しさです。
この自然な涼しさが、打ち水の魅力のひとつだと言えるでしょう。
 

打ち水に最適な時間帯とは？

打ち水は好きな時間帯にできますが、涼を取るために効果的なのは朝と夕方の時間帯です。
 
【朝方（7～9時ごろ）】
まだ地面が熱を持っていない時間帯に打ち水を行うことで、日中の温度上昇を緩やかにする効果が期待できます。
早起きして打ち水を行うことは、1日を快適にスタートする朝活にもおすすめです。
 
【夕方（16～18時ごろ）】
日が落ち始める時間帯に打ち水を行うことで、地面にたまった熱を冷まし、夜間の気温上昇を抑え過ごしやすくなるでしょう。
特に、帰宅後に玄関先で行うと、ちょっとしたリラックスタイムにもつながります。
 
【日中（9～16時ごろ）はおすすめできない】
真昼の炎天下では、すぐに水が蒸発してしまい効果が薄くなる上に、蒸気がこもって逆に暑く感じることもあるため注意が必要です。
 

打ち水に使う水はどんな水？

打ち水にはどのような水でも利用できます。
ただし、節約の観点や水源を大切にするという観点から、「再利用水」や「生活用水」を使うことが理想的です。
 
【打ち水におすすめの水】

• 洗米に使った水
• 野菜を洗った後の水
• 冷ました後のお風呂の残り湯
• エアコンの排水　など

 
環境負荷を減らすためにも、再利用できる水を用いるのがエコで賢いやり方です。
 
しかし、打ち水では道路や玄関先に水を撒くため、油分や洗剤が混じっていない「きれいな生活排水」を選ぶことが大切です。
 
また、生活排水の準備が難しい場合には、水道水も打ち水に使えます。
 

打ち水の正しい方法

打ち水の方法はとても簡単です。
必要なのは、バケツやジョウロ、またはひしゃくなどの水を入れられる容器と、水を撒くための道具。
これさえ準備できれば、打ち水はいつでも好きなタイミングで開始できます。
 
【打ち水の方法】

• 使用する水を準備

生活排水を容器にたっぷりと汲みましょう。
打ち水と同時に植物の水やりを行うことで、時短に◎。
 

• 風の向きを確認

風上から撒くことで、気化した涼しい空気が風下に流れます。
 

• ゆっくり静かに撒く

勢いよくバシャッと撒くのではなく、地面をしっとり濡らす程度に撒くことがポイント。
勢いよく撒くと跳ね返りで服が濡れることもあります。
 

• 玄関前や窓の下、庭の小道などに

風通しのよい場所に撒くと涼の効果が実感しやすいのでおすすめです。
 

打ち水をする際の注意点

打ち水の効果を実感するために、注意すべき点もあります。
 

アスファルトでの打ち水に注意

高温になっているアスファルトに水を撒くと、一気に蒸気が上がり、熱中症のリスクが増す可能性があります。
夕方に行うなど、タイミングに気をつけましょう。
 
また、人が歩いているときに打ち水を行うと、歩行者に水がかかってしまう可能性があります。
歩行者の姿を見かけた際には、打ち水を一旦止めるようにしましょう。
 

マンションや集合住宅では配慮を

共有スペースでの打ち水は、滑りやすくなったり、他の住民の迷惑になる可能性があります。
共有スペースでの実施は管理規約を確認の上、マナーを守って行いましょう。
 
管理規則に記載がない場合には、打ち水を行う前に、大家や管理会社に確認するようにしてください。
 

水の出しっぱなしはNG

バケツなどを利用せずに、ホースで勢いよく水を撒くと、無駄な水が大量に使用されてしまいます。
水資源の無駄遣いになってしまい、水道代も高くなる可能性があるため、必要な量だけ使用するようにしましょう。
 

「打ち水大作戦」で町ぐるみの涼対策も

打ち水の効果に注目して、全国各地で「打ち水大作戦」というイベントが行われているのをご存じでしょうか。
 
打ち水大作戦とは、「25℃以上になった日は打ち水をしよう」という呼びかけのもと、打ち水を行うことです。
都市部の温度を下げ、ヒートアイランド現象を和らげようという取り組みの一環として、2003年からスタートしました。
お子様たちの環境学習にも活用されており、環境と暮らしを考えるきっかけづくりとしても注目されています。
 
こうした取り組みに参加することも、打ち水の楽しみ方のひとつです。
 
参考：打ち水大作戦2025┃打ち水大作戦本部
 

打ち水はエコで心にも涼しい暮らしの知恵

現代の暮らしの中で忘れられがちな、自然の力を借りる知恵。
打ち水はその代表格ともいえる存在です。
 
単に気温を下げるだけではなく、打ち水には涼しさを感じる心の余裕や、季節を楽しむ感性が含まれています。
夕暮れ時にそっと水を撒いて、風の変化を感じるひとときは、忙しい日々の中での貴重な癒しにもなるでしょう。
 
今年の夏は、打ち水を生活に取り入れて、心地よい涼しさを楽しんでみませんか？